美桜 ~俺の美しい桜~
高校を卒業してこの春入学する大学は、地元では名の知れたところ。
と言っても学力が、ではない。
この、駅から続く1キロ程の桜坂だ。
隙間なく植えられた桜が正に今、満開を迎えている。
それは、圧巻。
「……すげーな」
この大学を選んだのは、単にアパートから近かったからだ。
でも今、面前に広がる桜に柄にもなく選んで良かったと思った。
入学の書類で確認したい所があると大学から連絡を受けた時は、面倒だと思ったが。
こいつが見れて悪くない。
入学式後では、とっくに散っていただろうしな。
坂の下から吹きつけた風で、桜が舞い踊る。
視界が一面ピンク色に埋めつくされた。
――あぁ、桜の嵐だな…
眩しくて、目を細めた。
「―――ん…?」
徐々に開けていく視界。
花びらのカーテンがゆっくりと開くようなその景色の向こう、
桜に包まれるように立っている女に目を奪われた。
それは、花びらに透けてしまいそうな白い肌をして、風に靡く長い黒髪を波のようにはためかせた、一人の少女。
その瞳からは幾筋もの涙が零れ落ちていた。
花吹雪と相まって、さながら一枚の絵。