美桜 ~俺の美しい桜~
君を見つけた
散ってしまうと思われた桜。
例年になくその花を持ち永らえているのは、あの時の彼女、
彼女が起こした奇跡のように思えた。
まさか、生きた人間だとは思っていなかったんだ。
「―――あ…」
目の前、横切って校舎に消えたその顔に、固まった。
「潤?どうしたの?」
「……悪い…」
「えっ、ちょっとぉ!」
腕を絡めていた女の顔を見もせず、その手を退ける。
間延びした声が響いたが、構わず駆け出した。
……まさか、今のは――…
長い廊下。
人の波に見えなくなりそうな後ろ姿を、掻き分けながら追う。
突徐方向を変え横顔を覗かせた。
今度は、はっきりと見えた。
間違い、ない。
彼女だ―――…
消えて行った教室は、俺と同じ。
吸い込まれるようにフラフラと教室に足を運ぶ。
彼女は、後ろの窓際、そこに腰掛け本を読んでいた。
窓から差し込む淡い春の陽が優しく包んでいる。
まるで彼女自身が発光しているような。
輝いて見えた、俺には。
彼女が。