君に染まる(後編)
「で?手作りだったら欲しいかもって思った?」
「…まあ、そりゃ……未央の手作りなら…食いてぇ…」
ぼそぼそと喋る俺におーと小さく拍手をする卓。
「未央ちゃん料理上手そうだしね。なんかこう、家庭的なイメージない?」
「ん…まあ、な…」
「バレンタイン楽しみだね」
にこっと笑った卓はうまく話をまとめたつもりなのか、俺が寝ている間やっていたらしい携帯ゲーム機に視線を落とし会話を終了させた。
少し寝ぐせのついた髪をかき、枕元に転がっている携帯に手をのばす。
記憶にある時間からすでに4時間は経っていた。
少し寝すぎたな…とぼんやり思いながらベッドの上に放ってあるカーディガンを引き寄せる。
カーディガンの裾に腕を通した時、卓が思い出したように口を開いた。
「あ、そういえば未央ちゃん来てたよ」
「あ?まじかよ」
それを先に言えとでも言わんばかりに食い気味に返事をし、急いでカーディガンを着る。
「…ん?待て待て待て。今日は未央レッスンだろ?なんでいんだよ」
「さあ?僕が2階にあがった時に入ってきたのを見ただけだから、まだいるかも分かんないよ?」
なんともあいまいな情報だ。
けど、貴重な情報でもある。
これ以上卓からは何も聞き出せないと判断し、再び携帯に手をのばした。
着信はおろか、メールすら届いていない。
俺に会いにきたんじゃないのか?
美紅に用があったのか…それとも何か忘れ物でもしたのか…。