君に染まる(後編)


…今日も、するのかな。



眠気と疲労いっぱいの体を動かし
VIPルームへと向かう。



先輩はいつもと同じように
ベッドルームのベッドに腰かけ、
メガネをかけて書類を見つめていた。



お仕事が忙しいのか、
最近の先輩はいつも片手に書類で。



そんな中で
あたしとの時間を作ってくれてるのに
拒んでいいのかな…。



そう思ってしまうのも、
話せない原因の1つかもしれない。



「よお。遅かったな」



あたしがドアを開けると、
先輩はメガネを外して書類を手放した。



疲れをほぐすように首を回す先輩に、
返事は分かっていても
一応お決まりの言葉をかける。



「あの、今日はレッスンが…」



「あ?ああ…んなの、
いつもみたいに時間ずらしてもらえよ。
いちいち報告しなくていい」



「でも…」



そう言いかけて、あたしは口を噤んだ。



レッスンがある日は
今みたいに時間をずらせと言う先輩。



でもそれだと、
家に帰る時間が遅くなっちゃうし、
そのせいで勉強の時間が削られる上に
先輩とした後は眠くて余計に…。



なんて…
いつも言えない言葉を飲み込み
そのまま黙り込む。


< 12 / 268 >

この作品をシェア

pagetop