君に染まる(後編)
レッスンがあるから会えない。
今日は友達と約束してるから。
そんな当たり前な言葉が言えず、
ただただ先輩のペースに流されてしまう。
「何ぼけっと突っ立ってんだ。
こっち来いよ」
ドアの前で立ち尽くすあたしに
横に座るよううながす。
“この際だしはっきり言っちゃいなよ。
話せば分かってくれるかもしれないし”
そうだよ…はっきり、言わなくちゃ…。
「あ、あのっ」
「あ?」
口を開いたあたしを先輩が見つめる。
真っ直ぐなその瞳に、
睨まれているわけでもないのに
思わず固まってしまった。
「…なんだよ。どうかしたか?」
立ち上がった先輩が
不思議そうに近づいてくる。
「あ…えーっと…」
ダメだ…やっぱり、勇気ない…。
途切れた言葉を続けられず
目を泳がせていると、
黙ってあたしの言葉を待っていた先輩が
顔を近づけてきた。
あ…。