君に染まる(後編)
「…イブの日…なんとなく先輩の様子がおかしくて……」
頬をさすっていた指が止まる。
「お兄ちゃんと話した時に何かあったのかなって思ったんです…けど、その時は聞けなくて…だから次の朝起きた時に聞こうと思ったんですけど、先輩すっかり元気になってたから…」
やっぱり、未央は俺の異変に気付いていたんだ。
予想はしていたけど、それが確信に変わってしまうとどうにも惨めだ。
「でも、それからもたまに元気なさそうで、ため息も多くて、私といる時もなんだかいつもの創吾先輩じゃないみたいで…美紅先輩たちに聞いても何も知らないって言うし、お兄ちゃんに聞いてもイブの日のことは教えてくれなくて」
見つめ合うことが恥ずかしいのか視線を合わす、外すを繰り返しながら未央は続ける。
「そしたら美紅先輩が『未央ちゃんが元気づけてあげれば?』って言うもので…その…」
一瞬にしてバッと顔を赤く染めた未央は、重ねていた俺の手を更にぎゅっと握った。
「…なるべく…先輩をう、受け止めようと、思いまして…抵抗とかしないように…たまには私から、なんてこともしてみようかと……頑張っては見たんです、け、ど………!」
目が合った瞬間、俺の手からすり抜けるほどの勢いで体を起こした未央はあたふたとソファーから降りた。