君に染まる(後編)
「…未央がそう思わなくても、俺は純情だと思うぞ。未央としてると、たまにすげぇ綺麗なものを汚してる気分になる」
まあ、その背徳感は嫌いじゃないけど…と続けようとした言葉はさすがに飲み込んだ。
よく分からないといった表情で見つめる未央にフッと笑いかける。
「…イブの日から今日までの間、いろいろ戸惑ったかもしれねぇ。自分が自分でないような感覚もあったかもしれねぇ。けどさ、安心しろよ。好きな相手に触れて触れられて、キスしてセックスして嬉しいとか気持ちいいって思うのは別におかしいことなんかじゃない。普通のことなんだよ」
「普通のこと…こんな…先輩と目が合うだけで触って欲しい、なんて…そんなこと思っちゃうのが…ですか?」
「普通だよ」
「じゃ、じゃあ…世の中の人は好きな人に対していつも…いつもこんな風に、思ってるってことですか…」
「まあ、度合いにもよるけどな。みんながみんな最初っから発情してるわけじゃねぇだろうよ。ただ、大半が…そうだな、例えばこんな風に…」
そう言いながら、自分の手と未央の手を合わせる。
俺の手にすっぽりと収まってしまう小さな手に目を細め、抱き寄せた体に寄り添った。
「こんな風に…触れたいって思うし、体温を感じたいって思う。そういう気持ちがだんだん高まっていけば、キスがしたくなってセックスだってしたくなる。それは人間の本能だし、無理に逆らう必要もない。未央だって欲求も性欲もあるはずだ。それを恥ずかしいとか卑しいなんて悩む必要ねぇよ」
指を絡め握った手に力を込める。
顔を覗き込むとおろおろと視線を泳がせていたので「普通のことだよ」と優しく告げると、数回まばたきをした後視線を外し、繋いだ手を握り返した。
クスッと笑みをこぼし、未央の体を抱きしめたまま扉を背にしてその場に座り込み、俺に引きずられるがまま同じように座り込む未央を足の間に入れる。