君に染まる(後編)


「未央、あれは…」

「先輩のファンの人からですよね?あんなにたくさんもらえるなら、やっぱり私作らなくてもよかったんですよ。そうすれば先輩があんなもの食べる必要なんて…」



自分で言っておきながら自分でショックを受けたみたいで、少し涙目になりながらも未央は続けた。



「本当は、先輩が甘いもの苦手なら作るつもりなかったんです…なのに先輩、甘すぎないならとか中途半端なこと言うから…」

「俺のせいかよ」


そういうわけじゃ…と目を伏せる未央の唇をぷにっと押した。



「未央。俺はバレンタインが嫌いだ」

「え?」

「好きでもないチョコを大量に押し付けられて、その上ホワイトデーにはお返しを求められて。菓子業界の戦略に踊らされるのは勝手だけど、俺を巻き込むんじゃねぇって思ってる。それは今でも変わらない。けど…少しは分かった気がする」


未央にもらったチョコという名の塊の味を思い出し、唾を飲み込む。



「味はどうあれ…未央からバレンタインチョコをもらえて、めちゃくちゃ嬉しかったからな」


未央の唇がかすかに動く。


「…味はどうあれ」


サーッと青ざめていく様にぎょっとし、内心慌てふためきながら未央の頬を両手でつまんだ。



「バカ。味はどうだっていいんだよ。俺は、バレンタインのおかげで未央が俺のことを想って行動してくれたことが嬉しかったんだ」


その言葉に未央はきょとんとした。


頬をつまんでいるせいか半開きになっている唇のせいですごく間抜け面だ。


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