君に染まる(後編)
「先約があればいくら俺が誘ったって断るし、俺といる時よりピアノ弾いてる時の方が楽しそうだし」
「そんな、こと…」
「言い切れるか?無理だろ?」
強い口調に口を閉ざす未央。
それでも俺は続けた。
「未央はさ…今は俺のこと好きかもしれないけど、付き合い始めた頃はたいして好きじゃなかったろ?男に慣れてなかったから触れられてドキドキしたのを勘違いしたり、俺の言葉に酔ったり…ただ流されただけなんだよ。要は、誰でも良かったってこと。もし俺より先に俺みたいな押しの強い男に迫られてたらそいつのこと好きになってたんじゃ―――」
ヒュンッ、と…空気を切るような音。
続けて聞こえてきたのは鈍いガンッという音。
一瞬すぎて何が起こったのか分からなかったが、俺は反射的に声を詰まらせ、未央は顔を歪めた。
どうやら未央が手を振り上げ勢いあまって壁にぶつけたらしい。
それが、俺を叩こうとして起きたことだと理解するまでにそう時間はかからなかった。
痛そうに手をさする未央を呆然と眺める俺にチラッと視線を向けてくる。
「…半分正解です」
「…え?」
「先輩が言ったこと…半分正解です…」
そう言うと、未央は唇を噛みしめた。