君に染まる(後編)
「…確かに私は押しに弱いです…もし、先輩より早く他の男の人に迫られたりしてたとしたらその人のことを好きになっていた可能性はあります…でも…」
未央が俺を睨む。
「それは、もしもの過去の話で今の私たちとはまったく関係ありません。誰でも良かったとか…そんな、こと…先輩に言われたくないです…」
今日、未央のこんな顔を見たのは何度目だろうか。
さっきまでと心情が違うとはいえ、見慣れてしまった未央の苦渋に歪む顔を前にしながら俺は意外と冷静だった。
「私、恋愛経験ありませんけど常識ぐらいはあります…いい加減な気持ちで先輩と付き合うようなことしたりしませんし、付き合っていくうちにやっぱり違うなって思ってたらきっぱり別れてます。最初は、キスとか…先輩がしてくるからされるがままでしたし、イブの日までは好きだから触れたいとかよく分からなくて…先輩の言う通り流されてたんだと思います。でも、嫌じゃなかったから流されてただけで、嫌なことは嫌だってちゃんと言いますし…好きでもなんでもない人に流されることなんてありません…だから…」
だから…と、震える声を絞り出し小さく息を吸い込んだ。
「…そんなこと…言わないで………」
制服のスカートを握り締める手にぽろぽろと零れ落ちる涙。
しゃくりあげる未央をただ見つめることしかできなくて、俺は未央から視線を外した。
…仕方ないだろ。
普段気持ちを言葉にしないけど、今日は勇気を振り絞って伝えてみました…みたいな顔をされるとイライラする。
どんなに好きでも、お前は俺の側から離れていくかもしれないのに。
好きって気持ちだけじゃ、俺の側にいてはくれないかもしれないのに。
それなのに、そんな顔するな…。