君に染まる(後編)
「教えてください…」
頭の上からか細い声が降ってくる。
「どうしてそんなに…苦しそうなんですか」
「っ…」
「イブの日…何があったんですか……」
質問に答えられず、俺は黙り込んだ。
「…お兄ちゃんが、失礼なことでも言いましたか?」
「…別に…アニキは何も悪くない」
「でも!…でも、イブの日…お兄ちゃんと話したって言ってたあの後から、先輩様子おかしかったです…お兄ちゃんのせいとしか―――」
「そんなことねぇよ」
少し強い口調に未央の体が少しだけビクッとした。
「…どうして教えてくれないんですか…私にも関係してることじゃないんですか…」
「…未央」
「嫌です、私…先輩がこんなに苦しんでるのに、私は何も知らないなんて……」
腕の力は弱まらない。
それでも、しょせんは女の力…ましてや女の中でもか弱い部類に入る未央の力なんて俺が本気を出せば簡単に抜け出せてしまうほどだ。
それなのに…どうしてこんなに安心するんだろうか。
どうしてこんなに…守られてる気分になるんだろうか。