君に染まる(後編)
「…別れるなんて言いませんよ……大丈夫ですからね…大丈夫ですから…」
まるで子供をあやすかのような口調に頭を撫でる手つき。
しばらく未央に寄りかかっていたけれど、落ち着いてくると、何やってんだ俺たちは、とおかしくなってしまった。
「…どうして笑うんですか?」
「え?いや…だって…ははっ」
ゆるんだ腕の中から抜け出すと、スッと未央の香りが消えた。
寂しさを感じながら未央と向き合う。
不安そうな表情を浮かべる未央は膝立ちだった状態からぺたんと床に座り込む。
「…大丈夫、ですか?」
「ああ…あ、いや…まだ、大丈夫ではない…」
はあ、と息を吐く。
「たぶん…この怖さは、その時がきてちゃんと解決しないと無くならねぇと思うんだ…」
「…何があったかは、教えてくれないんですか?」
「悪い…」
「じゃあ…じゃあせめて、私に何ができるか教えてください」
「あ?」
「一時的だとしても、先輩のその怖いって気持ちがなくなるために私は何をすればいいんですか?」
「何って…」
「抱きしめてあげるとか…キ、キス、してあげるとか…」
「は!?」
未央らしからぬ発言に思わず声を上げると、未央の顔がボッと赤くなった。
「う…自惚れて、みました…」
真っ赤な顔でそんなことを言う。
やっぱり今日の未央はいつもの未央じゃない。
こんなにも…煽ってくる。