君に染まる(後編)
ぴくりともしない携帯をかれこれ2時間ほど眺めている。
あの日、逃げるようにベッドルームを飛び出した後、先輩は追いかけてきたりはしなかった。
けれど絶え間なく送られてくるメールやかかってくる電話。
それが嫌になり電源を切った携帯は、1週間ほど本来の役目を果たしていない。
今電源を入れたらどれだけの受信と着信がきているのだろうか。
…どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
そんなことを考えている間に2時間が経っていた。
「未央ちゃーん、楓ちゃんがきたわよー」
1階からお母さんの呼ぶ声が聞こえ用意していたバッグと上着を手に取る。
玄関先で待っていた楓ちゃんが階段を下りる私に「やっほー」と声をかけるのに笑顔で返す。
「携帯、電源入れた?」
玄関のドアを開いてくれた楓ちゃんに軽く首を横に振る。
「終わったら入れようかな、って…」
「そっか」
それ以降、創吾先輩の話にはならなかった。