君に染まる(後編)
ダンッ!…と、部屋中に響いた襖を開く音。
楓ちゃんの言葉は遮られ、みんなが一斉に顔を向ける。
同じように顔を向けた私は目を疑った。
今まさに、みんなが話題にしていたその人が息を切らして立っている。
「…創吾、先輩?」
どうしてここにいるのか、どうしてこの場所が分かったのか…疑問はたくさんある。
けどそれ以上に、創吾先輩のギラついた瞳が怖くて動けない。
私を見つけた創吾先輩は部屋全体を見渡すと、はぁ…と大きくため息をつきドスドスと大きな足音を立てながら近づいてくる。
ただならぬ空気を察したみんなが創吾先輩のために道をあける中、楓ちゃんが創吾先輩の行く手を阻んだ。
「あ、あの創吾先輩?あまり感情的にならずに…」
「楓には関係ない。どけ」
「…未央の嫌がること、しないって約束してくれますか」
「…あ?」
「約束してくれないならどきま―――」
「いいからどけ!」
声をあげ、創吾先輩は楓ちゃんを無理矢理押し退けた。
少しよろめいた楓ちゃんがすぐ様振り返り心配そうに私を見つめるのが一瞬見えた。
その視線を遮るように目の前で創吾先輩が足を止める。
「…帰るぞ、未央」
怖くて顔をあげられないまま腕を掴まれ、勢いよく立ち上がらされる。
「…っ」
手の力に顔を歪めても創吾先輩はかまうことなく私を引っ張って歩き出した。