君に染まる(後編)
「百瀬」
ハッとして顔をあげる。
目が合った高杉くんは私の「大丈夫」という言葉を信じて安心したように騒いでいるみんなとは違い、まだ創吾先輩に腹を立てているようだった。
「この世の終わりみたいな顔してるぞ。アイツのこと考えてたのか?」
「アイツじゃなくて…獅堂創吾…」
「そんなことどうでもいいよ。別に興味ないし」
そう言って、手に取ったグラスの中身を全て飲み干した。
「…ね、ねえ、それ…お酒じゃないの?」
「え?ああ、そうだけど」
半分以上はあったそれを一気に飲み干した高杉くんは少し頬が赤い。
「みんな普通に飲んでるぞ。まあ、百瀬は真面目だから飲むわけないだろうって誰も回してこなかったんじゃ―――」
「ん?何?未央ちゃんも飲みたい?」
高杉くんの言葉を遮ったのは、ビールのジョッキを両手にみんなに配り歩いていたらしい子。
「わ、私はいいよ、飲んだことないし…未成年だし…」
「みんな未成年だよー!飲みな飲みな!」
ドンッと目の前にジョッキを置かれ思わず固まる。
「それ飲んで、彼氏のこと一瞬だけ忘れちゃいなよ。悩むのは明日から!」
「忘れる…」
まるで売り子のセールストークのようなその口調にのせられたのかもしれない。
無意識にジョッキを手に取っていた私はそのまま一気にビールを飲み干した。