君に染まる(後編)
この頃の俺はもっと自分に自信があった。
眉目秀麗、成績優秀、将来有望。
地位も財力も望めば手に入り、誰が見ても勝ち組の人生。
恋愛だって、興味こそなかったもののいつかは誰かと結婚して会社の跡取りを…なんて漠然と考えていた。
父さんと母さんはすごく仲が良くて息子の俺がいてもイチャイチャするようなバカップルぶりだったし、トップに立つ人間にとって愛だとか恋だとかいう感情は決して無駄ではないと知っていた。
お見合いだろうと政略的なものだろうと必要なものと感じていた。
だから、俺と一緒になれる女は幸せなんだと思っていた。
こんなに完璧な男をゲットできて、愛されて。
だから…だから俺からこんなにも気に入られ求められている未央は本当に幸せなんだと思っていた。
お見合いでもなければ政略的でもなく、普通に恋をして俺の女になれた。
最高に幸せな女なんだと信じて疑わなかった。
未央が玉の輿とか優良物件とか、そんな考えを働かせるような女じゃないことは分かってる。
けど、それに近しい幸福を気付かないうちに感じているんじゃないかとは思っていた。
未央が俺から離れていくことなんて絶対ない。
もし別れる時がくるとすれば、それは俺が未央を好きじゃなくなった時だと。
ありえる可能性はそれしかないと。
俺が別れを切り出して、未央が「別れたくない」とすがるだろうと、あの頃の俺は心の奥深くでそう思っていた。