君に染まる(後編)
「…話ってなんでしょうか。創吾先輩とのことを聞かれたいだけなら私はこれで失礼します」
微笑んでいた菅咲さんの顔から笑みが消えた。
「では単刀直入に申し上げます。創吾さんと別れてください」
「っ…」
ある程度想像はしてたけれどいざ言葉にされると予想以上の衝撃だった。
「創吾さんにお願いしても聞いてはくださらなかったの。だから未央さんに直接お話したくて」
「そんなこと、お願いされて『はい分かりました』なんて簡単に言えることじゃ―――」
「お願い?」
クスッと笑う。
「これはお願いじゃなくて注意ですわ」
「注意?」
「そう。獅堂財閥の跡取りである創吾さんはこの先これまで以上にお仕事に励まれることでしょう。プライベートは素行が悪いと耳にしますが目立つようなことはされてませんし世間の評判が悪いわけではない。将来を考えて身の振りをわきまえていらっしゃるんです。そんな創吾さんの妻が未央さんで、創吾さんを見る業界の目はどうなるか…一般庶民の未央さんでもお分かりになりますよね?」
「業界の目…」
「創吾さんの立ち居振る舞いだけでなく、その横に並ぶ妻も獅堂財閥の顔として自覚しなければならないということです。妻の言葉は創吾さんの言葉、妻の行動は創吾さんの行動、妻の思考は創吾さんの思考…別物としては見てくれないのです」
一息つきお茶を口にする。
「だから、妻になるのは私です。それでも創吾さんの側にいたいなら妾で我慢してください。私は一向に構いません」
何も言葉が見つからず目を伏せた。
世界が違いすぎる。
こんなの、ドラマや歴史の話でしか知らない。
正しい返答なんて分からない。
でも…。
「私は…ーーー」