君に染まる(後編)
ホテルに付くとすでにたくさんの人で賑わっていた。
…なんだか腰が引ける。
ここにいる人はみんな大手企業の重役や著名人ばかり。
やっぱり場違いじゃないのかな。
うつむいていると畠山さんが私の背中に手を添えた。
「心配ありませんよ、未央様。堂々としていましょう」
優しく微笑む畠山さんにホッとする。
「はい」
小さく頷いて会場に向かおうとした時、人混みの中に見つけた人物。
私と畠山さんを見つめじっと立ち止まる創吾先輩だ。
「創吾先輩っ」
思わず小走りに先輩の元に走りよる。
と、その瞬間慣れないヒールでつまずいた。
「わっ」
間一髪、創吾先輩が私を支えてくれる。
「ご、ごめんなさいっ」
慌てて起き上がり身なりを整える。
通りすぎる人達がチラチラと横目に見ていく。
恥かかせないようにって思ってたのにさっそく目立ってしまった。
呆れてるかな…と、無言の先輩を見上げると口元を手で覆い目をそらしていた。
「…先輩?」
「あ、いや」
呆れている感じでもないし怒っているわけでもなさそう。
というより、なんだか…照れてるように見えるのは気のせいなのかな。
「…あんまり綺麗だからびっくりした」
依然として目はそらしたまま。
気のせいじゃなかったみたいだ。
ちらっと私を見ては口元がゆるみ目をそらすを繰り返す先輩につられ顔が熱くなる。
「坊っちゃん」
畠山さんの声に2人してビクッと反応する。
「あー…行くか」
こほんっとわざと咳をしてみせ、左手を私に差し出した。
固まる私に「ほら」と催促する。
「大丈夫なんですか?菅咲さんもいるんですよね」
「何心配してんだよ。胸張ってろ」
そういうと先輩は無理やり私の手をとった。
「俺の恋人は未央だろ。遠慮なんて必要ねぇよ」
行くぞ、と私の腰に右手を添え会場内へ誘導する先輩に従う。