君に染まる(後編)
「さっきのよりは歩きやすくなるだろ」
両足とも履きなおし、先輩が立ち上がる。
「あ、ありがとうございます」
お礼を言いながら立ち上がる先輩に合わせて顔を上げる。
が、差し出された先輩の腕につられすぐに下を向いた。
「腕組んで」
更に私の方へ差し出される腕に戸惑い固まる。
さっきほどではないとはいえ、主催者である先輩に跪かせてまで靴を履かせた私への周囲の注目は未だおさまらない。
そんな中で腕を組んだりなんかしたら…。
「…何考えてるか知らねぇけど」
先輩が私の手を掴み無理やり自分の腕と絡ませる。
「今日、俺は恋人として未央に出席して欲しいってお願いしたんだけど…覚えてる?」
キスされるんじゃないかというぐらいの距離で顔をのぞきこまれた。
一瞬ドキッとしたがすぐにハッと冷静になる。
そうだった。
私は今、獅堂財閥のパーティーに獅堂創吾の恋人として出席しているんだ。
会社のことはよく分からないけどこれだけは理解できる。
私の行いが悪いと先輩に恥をかかせてしまうということ。
仕事のことが分からなくたって、見た目が釣り合っていなくたって、立居振る舞いぐらい気を引き締めていなくちゃ。
「ごめんなさい、もう大丈夫です。しっかりやり遂げますから」
先輩の腕から離れ背筋を伸ばし姿勢を正した。
真っ直ぐ先輩を見据えると「は?」と漏らし首を傾げる。
「何?意味わかんねぇんだけど?」
「だって、恋人らしくきちんと振る舞っていないと先輩の体裁が…」
「体裁?」
更に疑問を抱いていた先輩の表情が突然変わった。