君に染まる(後編)


「獅堂創吾です。皆様、本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます」


聞いたことのない、仕事をするときの先輩の声。

この声を管咲さんはきっと聞きなれている。

たったそれだけでも胸の奥がざわつく。


「管咲蘭です。獅堂財閥と我が管咲財閥が数年前から共同で企画してきた新たなホテルが本日プレオープンとなります。ご用意させていただいた本日のお料理、実際にホテルのレストランで提供されるものとなります。お越しいただいた皆様には先行的にお楽しみいただいております。また、本日ご都合のいい方に関してはぜひ当ホテルに今夜お泊りいただければと思い全室無料で開放させていただいております。ご希望の方は後程あちらでお申し出をお願いいたします」


歓喜の声と共に会場中が拍手に包まれた。

堂々と挨拶をする管咲さんにざわつく胸がおさまらない。

私は、管咲さんと同じように先輩の横には立てない。


いっそ、この場から逃げ出してしまいたい。


一歩後ずさりをして2人から目をそらしうつむいた。



私、そもそもなんで今日ここにいるんだっけ。




「これは素敵なサプライズをありがとうございます!さて、もう1つ発表がありまして…実はまだこのホテル、ホテル名が発表されていないんです!この瞬間まで伏せられていたのにはオーナーの素敵な想いがあるとのことお伺いしております。ぜひ創吾様この場で発表をお願いできますでしょうか?…創吾様?」


「…あ、はい。ありがとうございます」


少し口ごもった声が聞こえ、マイクを遠ざけたのか遠くの方でんんっと咳ばらいをする先輩の声が響く。


「だいぶハードルをあげられてしまいましたが」


会場に笑いが起きる。


「当ホテルの名前、蘭さんと最後まで悩みに悩んで決めました。獅堂も管咲もたくさんのホテルや旅館を経営していてその共同ホテルですからどんな素晴らしい名前にしようかと…そこでようやく決定したのがこちらの…」

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