君に染まる(後編)
どよめく会場。
先輩は気にせず笑顔で続けた。
「私が通う学園で出会った女性です。一般家庭で育った彼女は今日初めてこのようなパーティーに参加し少々緊張しておりますので私からの一方的なご紹介となり恐れ入ります」
「彼女と出会い、私は今まで知らなかった感情をたくさん教えてもらいました。喜びも悲しみも怒りもたくさんの種類があると…私の人生はとても豊かになった気がしています。今まで獅堂を継ぐことばかり考えて生きてきた私にとって彼女は唯一無二の憩いの存在です」
もしかしたら、先輩は私の様子に気付いていたのかもしれない。
劣等感、疎外感。
気付いてこんなこと…。
「まだ私は未熟者ですから将来のことを約束できるほど立派ではありません。それでも、彼女とはこの先もずっと一緒にいたいと、そう思っています」
再び会場がどよめく。
これは、誰が聞いても…プロポーズのそれだった。
「さて、少し長引かせてしまいましたが当ホテルの名前を発表させていただきます。こちらのスクリーンをご覧ください」
私の後ろにあるスクリーンにライトが当たる。
パッと暗くなったスクリーンに浮かび上がる文字。
先輩が読み上げた。
「当ホテルの名前は『Familiar』。偉大なる父から受け継いだこのホテルの成功を祈って、また父と母に尊敬の意味も込めて名付けました。このホテルにお泊りいただくお客様にはまた泊まりたいと思っていただけるような安らぎの場所、実家のような安心感を提供したい。そして…」
前を向いていた先輩が私へ顔を向ける。
「…そして個人的には、私にとっての彼女の存在の意味も込めて」
優しく微笑んだ先輩は再び前を向いた。
「本日はお越しいただきありがとうございました。いくつか余興もご用意しておりますので最後までお楽しみいただければ幸いです。今後とも獅堂財閥、管咲財閥、そしてこのFamiliarをどうぞよろしくお願いいたします」
深々とお辞儀をする先輩に続き私も頭を下げた。
少し間が空いて会場に拍手が響き渡る。