君に染まる(後編)
メニュー表を覗き込んだと同時に部屋のベルが鳴った。
先輩はメニュー表を私に渡すとドアスコープを覗き扉を開けた。
部屋の前にいたのは畠山さんだった。
「坊っちゃん、奥様は先ほどお帰りになられました。明日にでも坊っちゃんにお電話されると仰ってましたよ」
「そうか。ありがとう」
「今夜はこのままこちらでお休みになられますか?」
「ああ、そのつもり。畠山も部屋取ってるから泊まっていけよ」
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて」
それでは、と踵を返す畠山さんに私は反射的に「あの」と声をかけた。
「良かったら畠山さんも一緒にごはん食べませんか?」
私の言葉に2人はきょとんとした表情だ。
「今日、畠山さんには本当にお世話になったので…その、1人でご飯を食べるよりみんなで食べた方が楽しいかなって」
「…ありがとうございます。お気持ちは嬉しいのですが、仕えるご主人様と一緒に食事はできませんので」
決まりごとですから、と畠山さんはにっこり笑った。