君に染まる(後編)
「…噂をすれば」
優先輩がボソッと呟く。
顔をあげ、優先輩の視線の先を見ると裏庭の入り口に蘭さんがいた。
「前にも同じことあったね。今度こそ俺行こうか?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
あまりにも力なく笑っていたのか優先輩の表情は今までに見たことないほど心配そうだった。
「大丈夫です」
念を押して答え、蘭さんの元へ歩み寄る。
「仲がいいんですね。創吾さんはご存じなのかしら」
開口一番の嫌味。
でも、あまり棘は感じない。
「何かご用でしょうか」
「…挨拶に参りましたの。すぐ済みますから、立ち話で失礼します」
挨拶?
小さく深呼吸をした蘭さんは続けて口を開いた。
少し唇が震えているように感じたのは気のせいだろうか。
「正式に、創吾さんと私は婚約者ではなくなりました」
「え」
「まあ、元々親同士の口約束だったので白紙に戻ったなんて言い方はおかしいんですけど。話がなくなったということです」
淡々としているけど納得はしていないような口調。
でもどうしてわざわざ私にそれを伝えにきてくれたのだろうか。
「獅堂と管咲の契約は共同事業があるのでまだ続きますが今後の取引については良好な関係は築けそうにありません。少なくとも管咲の会長が父である間は」
「あの…」
「仕事も終わりましたし私はまた海外に戻ります。気は進みませんが、次は管咲の会長夫人と獅堂の会長夫人としてお会いすることになるんでしょうね」
「管咲の会長夫人?」
「ええ。このご時世、私が会長になることもできますが父の意向ではどなたかを婿にもらい会長になってもらうようですから。私は会長夫人です」