君に染まる(後編)
本当は、と蘭さんは続けた。
「私は、獅堂の会長夫人になりたかったんですけど」
真っすぐ見つめられ腰が引ける。
そんな私を見て蘭さんはため息をつく。
「正直不安でしかありません。だから、帰国する前に忠告と…助言をしに来ました」
ここからが本題というように真剣な表情に体が強張る。
「忠告と、助言ですか?」
「そう。獅堂の…財閥の会長夫人になるにはそれ相応の覚悟がないといけないんです。仕事をすることはなくても創吾さんの代わりに獅堂の顔として発言をすることもあります。前にもお伝えしましたけど、社交の場での立ち居振る舞いは全て獅堂の代表として評価されます」
それは、この前のパーティーで感じていた。
恋人の私が失態を犯せば創吾先輩の品位を疑われる。
「頑張ればなんとかなる、なんて世界じゃないんです。特にあなたは令嬢でもなければなんの後ろ盾もない。スタート地点から私や創吾さんにふさわしい女性と大きな差があるんですから」
「ふさわしい女性、ですか?」
「…ここからは助言ですが」