君に染まる(後編)
不本意ですけど、と呟いた蘭さんは少し黙りこんだ後ようやく口を開いた。
「お金持ちのご子息やご令嬢がなぜ同じようなご子息やご令嬢と結婚をするか、お分かり?」
突然の問いかけに思わず首を振る。
「同じような品位を求めるというのもありますけど大きな理由は後ろ盾です。同業だろうと異種業だろうと家族になれば交渉をしなくても事業拡大に貢献してくれますよね。いわゆる政略結婚です」
胸がざわついた。
「創吾さんは優秀な方です。けど、管咲と…この私と結婚しなかったことによる損害はとても大きい。そして、他の企業のご令嬢ではなく一般家庭で育ったあなたを選んだ。はっきり言って私には理解できません。獅堂にとってもあなたにとってもなんのプラスにもならない。ただ好きだからで済む話じゃない」
管咲さんのお父さんも同じことを言っていた。
私を選んでも「なんの得にもならないのに」と。
靄が、一気に晴れた。
「創吾さんのことですから理解しての判断だと信じています。何もかもを捨て置いてもいいほどのメリットがあなたにあるんだと。もっとも、ただただあなたに溺れ、周りが見えなくなった学生の脆い恋愛でなければですけど」
カバンから携帯を取り出し時間を確認した蘭さんは「そろそろ時間ですので」とお辞儀をした。
「なんの教養もないのに、今からこの世界に足を踏み入れないといけないなんて。私が創吾さんの立場なら、愛する恋人にそんな道は選ばせません。…これも一応助言です」
憐れんでくれたのか、本当に心配してくれたのか分からない。
言葉は厳しいけど、口調はとても優しかった。
蘭さんの助言は深く私の心に突き刺さる。