君に染まる(後編)
「未央!」
玄関に向かって必死に走った。
何度も先輩が名前を呼んでいる。
捕まっちゃダメ…捕まったら…気持ちが揺らいでしまう。
「きゃっ!」
「おっと」
玄関手前で誰かにぶつかり、顔をあげると困惑した表情の畠山さんがいた。
「未央様?いかがされましたか」
「畠山!未央を―――」
振り返ると階段を下りながら叫ぶ先輩。
けど、次の瞬間頭を押さえながらその場にしゃがみこんでしまった。
「坊っちゃん!」
畠山さんと、騒ぎに集まってきた使用人さんが先輩の元に駆け寄った。
「坊っちゃん、どこか具合でも悪いのですか」
「大丈夫だ…少し眩暈がしただけ。それより未央は」
いまだに立ち上がれない先輩が辛そうな表情で私を見つめた。
私は…そのまま何も言わず外に飛び出した。