君に染まる(後編)
「送るって、あの…車呼んだんですか?」
「いや、歩く」
「え!?」
先輩が歩くなんて珍しい、というか…
むしろありえないことだと思う。
交通手段はいつも車なのに
どうして今日は歩きなんだろう。
そう感じながら首をかしげていると、
あたしの疑問に気付いたのか
少しばつが悪そうな顔をした。
「なんだかんだで心配してんだよな、
あいつも…」
「え?」
「優だよ。
自重しろって言われたついでにな、
『今日は手繋いで歩いて帰れ』とさ。
そん時は理解できなかったけど、
今なら分かる」
そう言ってあたしの手を優しく握った。
「つーかあいつ、
自分達でどうにかしろって言ってたくせに
結局助言してんじぇねぇか。
わざわざ俺をイラつかせるようなこと
言いやがって…――」
ブツブツと文句を言った先輩は、
その瞬間ぎゅっと手に力を込めた。
「…今度、どっか行こ」
「え…」
「恋人らしくちゃんとデートしよう。
俺の部屋じゃなくて、もっと違うとこで。
それと、毎日は無理だろうけど、
たまにはこうやって手繋いで歩いて帰ろう。
それで…許してくれるか?」