君に染まる(後編)
「お兄ちゃん…」
「…お兄ちゃん?」
あたしの言葉に先輩が反応している間に、
兄である百瀬吏雄はドカドカと足音を立てながら迫ってきた。
そして、あたしの手を握っていた先輩の手を強引に離した。
強く腕を掴まれたのか、離す瞬間先輩の顔が少し歪んだのを見逃さなかった。
けど、それに対して反応するひまもなく、お兄ちゃんはあたしの腕を引っ張って歩き出す。
「お兄ちゃん離して!」
引きずられるように引っ張られながらもそう叫ぶけど、
お兄ちゃんはまったく手の力を弱めようとしない。
そのままお店の中に連れ込まれそうになった瞬間。
「待ってください」
先輩がお兄ちゃんの前に立ちはだかった。
「どけ」
「話を聞いてください」
「必要ない。邪魔だ、どけ」
先輩の言葉に耳を傾けようともせず、強引に店の中に入ろうとする。
それでも諦めない先輩に我慢の限界か、
お兄ちゃんは思いっきり先輩を突き飛ばした。
「お兄ちゃん!?」
青ざめるあたしを無理やり店の中に押し入れると、
「2度と妹に近づくな!!!!」
そう吐き捨て、勢いよくお店のドアを閉めた。
「今すぐ別れてこい!!!!!!!」
地下のレッスン室に入るなり、お兄ちゃんがヒステリックな声をあげた。
思わずビクッと反応するあたしの横で、堀河さんが口を開く。
「吏雄~、イライラするとお肌に悪いぞ?」
「泉は黙ってろ!そして女みたいなことを言うな!」
「もーいいじゃん、彼氏の1人や2人。未央ちゃんだってもう高校生だよ?」
「そんなの関係無い!未央に彼氏なんて俺は絶っっっっっっ対認めない!」
「ま~たそんな父親みたいなこと言って。シスコンもここまでくると病気だな」