君に染まる(後編)
ドアが閉まるのと同時に力が抜けたようにイスに座りこむあたしに、
堀河さんは飲み物を用意してくれた。
「めんどくさいことになっちゃったね」
その言葉に小さくうなずく。
本当にまずい…。
あんなとこ見られちゃったんだもん…
お兄ちゃんの先輩に対する第一印象絶対最悪だよ…。
ショックでうちひしがれるあたしに、堀河さんが笑う。
「それにしても、あんなとこでチューするなんて未央ちゃんも大人になったよね」
「ほ、堀河さん!?」
「ははっ、顔真っ赤だよ?」
「か、からかわないでください!」
そう言いながら慌てて頬に手を添える。
「でもまあ、あんなとこ見られちゃって、吏雄もあんな様子で、
来月のコンサートは彼氏くん見にこれないかな」
「コンサート?」
頬から手を離したあたしに差し出された1枚のポスター。
それは、ここのピアノ教室が毎年行っている中高生クラスのコンサートのポスターだった。
「そっか、もうそんな時期なんですね。
でも、なんで先輩が見にこれないって…」
「今年の客寄せ吏雄なんだ」
「え…」
「もちろん招待状も用意しないだろうし、一般も当日券も無理だろうね」
堀河さんの言葉にあたしは顔をしかめた。