君に染まる(後編)
客寄せっていうのは、つまり広報みたいなもので。
教室の生徒の家族や友達などの関係者には、
配られるプリントに名前や枚数を記入したものを元に作った招待状を送る。
その他の人には、チラシを配って宣伝をし、当日ホールに来た際にチケットを手渡している。
客寄せならほぼ受付にいるだろうし、
毎年使わせてもらっているホールは入り口が一つしかない…。
「彼氏くんが来たとしても、吏雄が中に入れないだろうね」
「です、よね…」
別に先輩を呼ぶ予定は無かったし、
発表会に自分から誘うのはきっと恥ずかしくてためらったと思う。
でも、先輩にピアノを聞いて欲しい気はする…。
ちゃんとした場所で、ちゃんとした形で。
あたしのピアノを聞いて欲しい。
そんな気はする…。
「で?結局どうするの?」
「どうするって…
お兄ちゃんが客寄せなら仕方ないよ。先輩は呼べない」
放課後。
下駄箱で靴をはきながら楓ちゃんとそんな話をした。
「まあ別に、ピアノならいつでも聞かせてあげられるしね。
それならそれで獅堂先輩にはナイショにしないと」
「え?」
「だって、あの獅堂先輩だよ?
コンサートがあるなんて知ったらどんな力を使ってでも行こうとするだろうし、
もし吏雄くんがそれに気付いたらまた話がややこしくなっちゃう」
「そ、そうかな…」
「とりあえず、あの吏雄くんに先輩のことを認めてもらえるまでめんどうなことにならないようにしないと」