君に染まる(後編)
「あ。あの、大丈夫でしたか?」
「何が」
「あの、昨日、お兄ちゃんが突き飛ばしちゃって…その、すみません…」
「ん?……あぁ、あれか。別になんともねぇよ。
つーか、さっきなんの話してたんだ?」
「え?」
「楓となんか話してたろ。俺の名前聞こえたぞ」
「え、あ…えと……そんなたいしたことじゃ―――」
「教えろ」
「う………その…実は……」
「紹介?」
コンサートのこと以外を全て話すと、
一瞬驚いた先輩はすぐに表情を真剣なものへと変えた。
「悪い…ちょっと1ヶ月ぐらいは無理かもしれねぇ」
「え?」
「今会社ででっかいことやっててな、その仕事に加わってんだよ。
そうだな…11月ぐらいならなんとか…」
「ちょ、ちょっと待ってください!
…あの、あいさつするんですか?」
「あ?未央が言い出したんだろ?
それに、俺だってこのままじゃ気分わりぃよ」
「でも…」
Plulululu~♪
言葉をさえぎるように鳴った携帯。
慌てて携帯を開くと、その着信はお兄ちゃんからのものだった。
少し動揺しながらチラッと先輩を見ると、
誰からの着信なのか気付いたらしく表情を曇らせる。
「出ろよ」
「は、はいっ」
通話ボタンを押して携帯を耳に当てる。
その瞬間、お兄ちゃんの明るい声が響いた。