君に染まる(後編)
「もしも―――」
『未央!今どこだ?帰る準備はしたかあ?』
「…………え?」
突然そう言われ固まるあたし。
「…何?どういうこと?」
『ん?昨日言ったろ?これからできるだけ毎日送り迎えするって。
今朝は無理だったけど、バイトまで時間あるし今から迎えに行くから』
「え、迎えって、え、今から!?ちょっと待って!そんな突然…」
『だから、昨日言ったって言ったろ?』
「そんなこと…」
………言ってた。
頭をフル回転させて昨日の出来事を思い出す。
昨日、レッスンが終わり家に帰ると案の定待ち構えていたお兄ちゃん。
先輩のことを根掘り葉掘り聞かれたけど、最後までだんまりをつらぬいたあたしにお兄ちゃんの方が先に折れてしまった。
そのまま自分の部屋に戻ろうとしたあたしの背中にお兄ちゃんが何か言っていた気がする。
きっとその時のことなんだろうけど、聞き流してしまったらしくちゃんと覚えていない。
先輩からあたしを守るとかどうとか…。
というか、これって無理やりなんじゃ…。
『とにかく、もうすぐで学校着くから、正門で待ってろよ』
「え、あの、別にそんなこと―――」
プツッ
………切れた。
「……迎えねぇ」
一方的に切られた電話に唖然としていると、いかにも不機嫌そうな声で先輩が呟いた。
「あ…えと…そう、らしいです………」
視線を泳がせながら携帯を閉じた。
先輩の顔を見れず黙り込んでいると、ふいに先輩がため息をついた。
「まあ…仕方ねぇな。今日はここで別れよう」
「……すみません」
「謝んなよ、お前が悪いわけじゃねぇだろ」
「でも…」
「いいから」
そう言うと、あたしの頭を撫で、じゃあなと言って歩いて行ってしまった。
そんな先輩のうしろ姿をしばらく見つめ、申し訳ない気持ちになりながら学校へ引き返した。