君に染まる(後編)
「時間もあるし、未央の好きなケーキ屋でも寄ってくか?」
運転をしながら明るくそう言うお兄ちゃんに返事をせず、ぼーっと窓の外を眺める。
さっきから、まるで機嫌でも取るようにわざとらしく話しかけてくるお兄ちゃん。
返事をしないあたしに戸惑っているのかたびたびハンドルを指で叩いてリズムなんかとっている。
「そういえばさ、本屋の横のペットショップにめちゃめちゃ可愛い犬がいてさ~。
暇だし見に行ってみないか?」
「…これからバイトなんでしょ」
「ん?ああ、まあちょっとぐらいなら大丈夫だよ。行くか?」
「行かない…」
「…なあ未央」
呼ばれ、顔を向ける。
「早くアイツと別れろ」
「…嫌」
「あんな奴のどこがいいんだ?顔がいいから好きになったんじゃないのか?」
「違う!そんなんじゃない!」
「じゃあどこが好きなんだ?」
「そ、それは…」
そこで言葉につまる。
先輩に答えることができなかったのに、お兄ちゃんに答えられるわけがない。
「…どこが好きかもわからず付き合ってるのか?」
「ちがっ………違う…」
全然違う。