君に染まる(後編)
それから2週間。
お兄ちゃんの送り迎えは続行中。
軟禁とまではいかないものの、
休日に出かけようものなら「誰と会うんだ」「行き先を全て教えなさい」といつもの2倍も3倍も口うるさくなってしまった。
その上携帯まで没収されかけたけど、そこはお母さんが助けてくれてなんとか取られずにすんだ。
こうしてみると、お兄ちゃんのせいで先輩と会う時間が減ったように思えるけど、実際は違った。
というのも、先輩自体忙しいみたいで、先輩の都合で会えないことの方が多くて。
あたしもあたしでコンサートの練習でレッスンが増えている為、お兄ちゃんの妨害はあまり意味がなかった。
それでも、毎日先輩とのことをチクチク言われるのは少しつらい。
今日だって、2人の都合が合ったので会っているのに、
お兄ちゃんに見つかると面倒だからとVIPルームで過ごしている。
先輩と一緒なんだから別に不満ではないんだけど、それでもコソコソしているみたいで気分が悪い。
「…央…………未央!」
先輩の声でハッと我に返る。
ピアノを弾いていた手を止め、床に座り込んでいる先輩へ視線をうつした。
ピアノルームから音色の余韻が完全に消えたところで先輩が口を開く。
「どうした、ぼーっとして」
「え?あ、ごめんなさい」
「別にいいけど…つーか、ピアノって無意識で弾けるもんなんだな」
「あ、まあ…盲目のピアニストがいるぐらいなので、指が鍵盤の位置を覚えてれば無意識でも…」
って…何説明してるのあたし。
「ふーん…なんかここ最近ずっとそれ弾いてるよな、飽きねぇの?」
「まあ…練習しなくちゃいけないので…」
「何、コンクールでもあんの?」
「え、あの、あ、いや…そういうわけじゃないんですけど………」
一瞬ドキッとした。
思わずコンサートのことを言ってしまいそうになりながらもなんとか誤魔化した。