君に染まる(後編)


不自然にどもるあたしを笑いながら
階段を下りてくる。



「こっち」



あたしを通り過ぎる瞬間
そう声をかけ、
階段下のピアノルームに入っていった。



後を追って中に入ると、
先輩は壁に背中を預けて座りこむ。



「あの…」



「Lover弾け」



「え?」



突拍子もなく命令され思わず聞き返すと、
あたしを見上げる先輩が優しく笑った。



「子守唄代わり…聞きてぇ」



そう言った先輩の目元には
うっすらと隈が浮かんでいる。



「…お仕事だったんですか?」



「ん…徹夜した」



「徹夜って…」



まさか、
あたしと一緒にいたせいで
仕事が出来なかったんじゃ…。



「…別に、お前のせいじゃねえぞ」



あたしの心を読んだかのように
先輩は呟いた。



「なんか寝れなくてな、
暇つぶしに仕事の資料読んでたら
うたた寝しちまって…
そのせいで学校は遅れるし、
中途半端に寝たせいで気持ちわりぃし…
だから、Lover聞きながら寝る」


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