君に染まる(後編)
「あ、未央ちゃん!」
ピアノルームのすぐ横、ソファーの辺りでは何やら盛り上がっていた。
その中の1人、美紅先輩はあたしを見つけるなり嬉しそうに呼びかける。
「どうしたんですか?」
「ん?まあ、用ってことでもないんだけど…コンサート、聞きに行くからね!」
「え?あ…」
すばやく視線を楓ちゃんへと向ける。
目が合った楓ちゃんは、一瞬視線をそらし、
「獅堂先輩はダメでも、美紅先輩達は大丈夫でしょ?」
そう言って、てへっと笑う。
「もう、勝手に話して……」
「大丈夫だって。僕たち口堅いから」
「…でも、そのシスコンアニキ。俺と卓のこと通してくれるの?」
そんなことまで喋ったの…。
「まあ、警戒はされると思いますけど、未央と何も関係ないなら大丈夫だと思いますよ?
警戒はされますけど」
釘を刺すような言い方をした楓ちゃんに優先輩と卓先輩は一瞬顔をしかめた。
「それに卓先輩はあたしの彼氏ですし、
美紅先輩と優先輩をその日限定カレカノにしちゃったりなんかすれば万事解決かと!」
「嫌よ、優とだなんて」
「俺も嫌」
「えー?でも、未央のピアノ聞くためですよ?1日ぐらい我慢しましょうよー」
「…楓、楽しんでるでしょ」
優先輩の言葉にまた視線をそらした楓ちゃん。
「あ、そんなことより未央。先輩達にチケット渡さなきゃだからさ」
無理やり話を変えた楓ちゃんに美紅先輩と優先輩が苦い顔をした中、
あたしはカバンを床に置いた。
「申込用紙だよね?今日持ってきてたかな…」
ファイルを取り出し申込用紙を探す。
「…あ、あった。これに必要事項を―――」
そう言いながらプリントを机の上に置こうとしたその時。