君に染まる(後編)
ガチャッ
VIPルームのドアが開き、創吾先輩が入ってきた。
「…………ん?」
思わず先輩に背を向ける形で申込用紙を隠したあたし。
明らかに不自然な動きだった。
「そ、創吾くん、帰ったんじゃなかったの?」
「いや…上にも書類置いてたの思い出して戻ってきた。つーか…」
「だったら早く取りに行きなさいよ。そんでとっとと帰って」
「ああ?命令すんな美紅。つーか、おい。何してんだ未央」
「え?な、何も…」
「嘘つけ。今なんか隠したろ」
「別になんでもいいじゃん…忙しいんでしょ、早く帰りなよ」
「黙れ優」
ぴしゃりとそう言った先輩は、靴を脱いであたしに近づいた。
そのまま背後にしゃがみこむのを感じたのも束の間。
「…なんだこれ、紙?」
「あ…」
申込用紙の端をつまむと、あたしの手からするっとそれを抜き取った。
その場にいた創吾先輩以外の人が「あ…」と小さく漏らした。
「…コンサート…親族、友人……チケット申し込み………」
だんだんと声のトーンが下がっている先輩に少し怯える。
「なんだこれ」
間髪容れずそう聞かれ、
「その…それ、は………」
本当のことを話すべきか迷っていると、申し訳なさそうに楓ちゃんが口を開いた。
「あのー…あたしが話すので、そんな怖い顔しないでください…」