君に染まる(後編)
「…結局、俺だけ未央のコンサートに行けないってことか」
トーンが戻らないままそう言った先輩に楓ちゃんが返答する。
「そういうことです。当日券とかもきっと無理です」
ぴしゃりとそう言われ、先輩は不機嫌そうにため息をつく。
「もういいじゃない。
未央ちゃんのピアノはいつでも聞けるんだし、
これからのことを考えたら未央ちゃんのお兄さんと仲良くする方が大切でしょ?
今回は我慢しなさいよ」
「そ、そうだよ創吾くん。未央ちゃんは創吾くんの専属ピアニストなんだから」
「卓…今それ関係ないから…」
「とにかく!バレたのは仕方がありません。
だからって獅堂の力でどうにか、とかやめてくださいよ?
毎年お世話になってる会場なんですから、未央に迷惑かかるんで」
「楓ちゃん、何もそこまで………先輩?」
みんなのやり取りを黙って聞いていた先輩は、おもむろに立ち上がり、
「あ、そ」
そう言って、2階にあがっていった。
「…なんですか?あれ。怒ってるんですかね」
「さあ?また窓でも割りに行ったのかしら」
呆れたようにそう話す楓ちゃんと美紅先輩。
そうこうしているうちに、ほんの数分で戻ってきた先輩。
みんなが視線を送る中、何も言わず部屋を出ようと靴を履きだした。
「え、あ…」
慌てて立ち上がり後を追いかける。
急いで靴を履いたせいか踏み出した瞬間足がもつれかかりながらも、VIPルームを出た。