君に染まる(後編)


「…こいつらは誰だ」



チケットの申し込み用紙を見せると、顔をしかめたお兄ちゃんがほんの数秒でそう言った。


指さす欄には、西園寺卓、芹澤優、そして…獅堂創吾と書かれている。



「楓は分かる。
西園寺美紅っていうのもまあ名前からして女っぽいし、よく話してる先輩だろう。
問題は…」

「そ、その人達も先輩!」


お兄ちゃんを遮り口を開く。



「美紅先輩と仲が良くてね、コンサートの話してたらどうしてもって…」

「この中にあの男いるだろ」


ドキッ




「………その顔は図星か」

「…いないよ」

「兄ちゃんに嘘つかないでくれ」

「………嘘じゃ、ないよ」



目線をはずさないよう体に力をいれる。


まるで睨み合うような状態のまましばらく経ち、お兄ちゃんの方が先に顔をそらした。



「…とりあえず、楓の分は用意する。それ以外は当日券だ」

「そんな、美紅先輩まで……」


「仲がいいのは知ってるけど顔は見たことないからな。
一応チケットと席は用意しとくから安心しろ」


安心しろ、って……。



申込用紙をファイルにいれるお兄ちゃんに背を向け、何も言わずに部屋を出た。





名前教えてなかったし、もしかしたらいけるかもって思ったのが間違いだった…。


あの後VIPルームに戻り、美紅先輩に頼んで創吾先輩の分まで記入してもらったことを後悔する。



早歩きで自分の部屋に戻りベッドに倒れこんだ。


一瞬机の上の携帯を見つめ、小さくため息をつく。



電話…するって言ってたのにな……。

やっぱり怒ってるんだ………。



ベッドに顔をうずめ深いため息をつく。


全てが自分のせいではない為、お兄ちゃんという壁にどうしようもないもどかしさを感じる。


いろんなことで頭がパンパンになりながら、そのまま眠りについた。


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