君に染まる(後編)
そのままベッドルームに入り、腕を掴んだままベッドにどかっと座った先輩。
勢いであたしも座り、先輩と向かい合う形。
「あ、あの………」
うつむいたままどうすればいいのか分からず戸惑う。
昨日はあれから連絡なかったし…まだ怒ってるのかな………。
「…コンサートはいつだ」
「………え?」
「日にち」
「……あ、えと…来月の第一土曜日ですけど…」
「第一土曜…」
携帯を開いた先輩は、数秒だけ画面を見てパチンッと携帯を閉じた。
「じゃあ、コンサートの後から予定空けとけ」
「え?」
「正直未央の演奏聞けねぇのはムカつくけど、アニキが絡んでんなら諦める。
その代わり、コンサートが終わったら俺との時間だ。いいな?」
そう言いながら顔をのぞきこまれ、思わずうなずいてしまった。
あたしの反応に笑顔を浮かべた先輩は、頭に軽くキスをすると腕から手を離した。
「よし…じゃあ俺帰るわ。未央はまだいんのか?なんだったら送るけど」
「え?あ…今日は楓ちゃんと帰る約束してるので…」
「…………そこで俺を選ばねぇのかよ」
「なんですか?」
「…いや、別に」
不機嫌そうにする先輩に首をかしげる。
そのままベッドから立ち上がった先輩と一緒に立ち上がった瞬間思い出した。
「…あ。あの、もう怒ってないんですか?」
「あ?」
「だって昨日…」
「………あー…あれはもういいよ…別にお前だけのせいじゃないし」
「?」
「だから、今回のことは未央が悪いわけじゃねぇだろ。
チケットのこと隠してたのはムカつくけど、アニキが壁になってんならどうしようもできねぇし…
つーか、そのどうしようもできねぇ状況にイラだってたっつーか…とにかくもういいから」
そう言い終えると、先輩はあたしを見てなぜかニヤッと笑った。
「頑張れよ、コンサートの練習」
「?…はい」
そう答えたものの、怪しい笑顔の裏を見抜けるはずはなかった。