君に染まる(後編)
「ごめんね、吏雄が失礼な態度とって」
笑顔で先輩達に謝った堀河さんは、3人にチケットを配った。
「ほら吏雄。未央ちゃんの彼氏は来てないって分かったんだからもういいだろ。
これ以上やったら他の人にまで迷惑かかるぞ」
「けど!」
「けど、じゃない。いい加減にしろ」
そう言ってお兄ちゃんを羽交い絞めにした。
「あ、今のうちに中へどうぞ。吏雄は俺がどうにかするから」
「堀河さん、さっすが~」
「ども…」
「ありがとうございます」
「じゃ、未央ちゃん頑張ってね!」
そそくさと中に入っていった4人を見送り、堀河さんはお兄ちゃんを解放した。
不機嫌ではあるものの、大人しくなったお兄ちゃんを見ると、
「じゃあ、俺も戻るわ」
「あ…ありがとうございました」
「どういたしまして。演奏頑張ってね」
そう言って、ホールの中へ入っていった。
「獅堂創吾」
ビクッ
急にお兄ちゃんが耳元でそうつぶやいた。
振り返ると薄気味悪い顔で笑っている。
「な…何?」
「消去法。アイツの名前は獅堂創吾って言うんだな。覚えておく…」
殺気ともとれるオーラを漂わせながらのそっと受付に戻ったお兄ちゃんに、本気で背筋が凍った。