君に染まる(後編)


思わず黙り込んでしまい、そのままお兄ちゃんの視線に耐えていると、



「吏雄くんは彼女と過ごさないの?」



りんごを並べたお皿片手にお母さんが笑顔でキッチンから出てきた。



「いないよ、そんな人」


「あら、どうして?吏雄くんモテるのに」


「必要ないよ。音楽の方が大切」



フォークを手に取りりんごを食べるお兄ちゃんにお母さんが不思議そうな顔をする。



「そのわりにはいろんな女の子と遊んでるみたいだけど…」

「んぐっ!?」

「え?」



のどをつまらせるお兄ちゃんを気にせず首をかしげる。



「何それ?」


「未央ちゃん知らない?吏雄くんの携帯の着信、毎回違う女の子なのよ?」

「待って母さん!なんでそんなこと知ってるの!」


「あら、別に確認してるわけじゃないわ。
リビングでよく鳴ってるし、ディスプレイに名前表示されるじゃない。
本当にたまにだけど吏雄くん訪ねてくる子もいるし」

「え゛」



顔をひきつらせて硬直してしまったお兄ちゃんをぽかーんと見つめる。




知らなかった…お兄ちゃんって意外とそういうタイプだったんだ…。



いつもかまわれてたせいか物心ついた時にはすでにお兄ちゃんのことは苦手で、
あまり興味がなかったし常に避けてたしでお兄ちゃんのことなんて何も知らない。



どんな友達がいて。

どんな人生を過ごして。

どんなものに興味があって。





よく考えれば、本当に。

お兄ちゃんとはピアノでしか繋がっていない気がする。


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