君に染まる(後編)
到着したのは家から最寄りの駅。
先輩が電車…?
不釣り合いな組み合わせにものすごく違和感を感じる。
正直、券の買い方を知ってるのか不安だったけど、意外と慣れた手つきで券売機のボタンを押している。
「ん」
出てきた券のうち1枚をあたしに渡すと、そのまま改札へと向かいだした。
「…先輩、電車乗ったことあるんですか?」
後を追い改札を通ったあたしを、少し不機嫌な顔で見下ろす。
「あ…すみません…その、先輩が電車なんて想像できなくて…」
「…俺が御曹司だから?」
「え?」
「…いや…なんでもない」
意味深な表情を浮かべる先輩に首をかしげる。
すぐにでも尋ねようと思ったけれど、そんな場合ではなくなった。
ホームがかなり混み合っている。
時間が時間なだけに、今から街へ食事にいくのだろうという恋人や家族の群れで思うように歩けない。
人ごみを上手くすりぬけていく先輩と徐々にひらいていく距離。
「あ…」
もたもたしているうちに、人ごみの中に突き出ていた先輩の頭は見えなくなってしまった。
幸い、どこへ行くのかは聞いているし、ちょっとずつでも進めれば迷子になることはない。
けど…はぐれてしまったことに底知れない不安を感じる。