君に染まる(後編)


人で溢れる電車に揺られ、クリスマスムードで賑わう街中へ到着した。



「先に飯食うぞ」と連れられたお店は、予想通りフレンチのお店。

けれど、想像していたのとは違い、店内はアットホームな雰囲気で気後れしなかった。

テーブルマナーも厳しくなく、きっと、先輩が私に気をつかってくれたんだと思う。



食事の後は、特に目的もなくブラブラと街の中を歩いた。


イブの夜だけにどこもかしこもイルミネーションが煌めいている。




「…初めてですね、こういうの」

「あ?」

「なんとなく街を歩いたり…たまたま見つけたお店に入ったり…予定とか立てないでのんびりする感じです」

「…そう、だな…いっつも俺ん家だしな」

「はい。たまにはいいですね」



そう言いながら先輩を見上げると、なぜか顔を曇らせていた。



「…悪いな」

「え?」

「前約束したのに、結局どこも連れてってやれなくて…ホントはもっと……」



そう言いかけて、先輩は黙り込んでしまった。


どうしたんだろう…。

駅のホームでもそうだった…なんだか様子がおかしい気がする。



聞いてみようかと迷っていると、先輩が先に口を開いた。



「この後なんだけど、どっか行きたいとこあるか?」

「え?…いえ、特に」

「じゃあ、ちょっといいか?」



軽く微笑んだ先輩に少し首をかしげながらも、「はい」と返事をした。


< 92 / 268 >

この作品をシェア

pagetop