君に染まる(後編)
先輩に連れられ到着したのは都心のホテルだった。
口を開けてそれを見上げる私を特に気にした様子もなく、先輩は玄関へ向かう。
玄関に近づくにつれ見えてきた1人の男の人。
ちょうど今発車した車に丁寧にお辞儀をしたその人は、顔をあげてこっちを見るなり「あっ」と口を開いた。
「お疲れ様です、創吾様」
「お疲れ様です」
再び丁寧にお辞儀をしたその人にまるで部下を労うようなあいさつをする先輩。
「え?あの…」
「獅堂が経営してるホテルだからなここ」
浮かんだ疑問が一瞬で解決した。
「そ!…そう、なんですか……」
思わず声のボリュームをさげ肩をすぼめる。
考えを読まれたことに驚いている場合ではなくなった。
足を踏み入れたホテル内は、自分は場違いだと思い知らされるほど、普段過ごしている世界とは真逆の世界が広がっていた。
一般庶民が泊まるようなホテルとはわけが違う。
漂う雰囲気が違う。
そのうえ、クリスマスイブということもあってか周りにいる人達はみんなフォーマルな服装。
こんな恰好でいいのかな…と思いつつも、ダウンジャケットとデニムに安っぽいマフラーの組み合わせで堂々としている先輩にそんなこと言えるわけはなかった。