君に染まる(後編)
「…ん?どうした未央」
脱いだ上着をソファーの上に放った先輩が不思議そうに私を見る。
なんでもないと小さく首を振り、脱いだ上着を先輩のものも一緒にハンガーにかけた。
「さみぃなー…なんか温かいもん飲もうぜ。何がいい?」
ルームサービスのメニュー表をちらつかせる先輩に歩み寄る。
「あの…何かあるんですか?」
「あ?」
「その…何が目的でこのホテルに来たのかなって…」
「あー…んー…まあもうちょいで分かる…それより飲みもん」
バンバンとメニュー表を叩いて急かすので、それ以上何も言わず素直に飲み物を選んだ。
数分で運ばれてきた飲み物を飲みながら一息つく。
カップを両手で包み込むようにして手を温めながら、一緒に運ばれてきたクッキーをちょうどサクッといい音で食べた先輩に顔を向ける。
「…聞いてもいいですか?」
「ん」
「…どうやってお兄ちゃんのこと説得したんですか?」
「………知らね」
「知らね?」
質問に対しての適切な回答ではない。
一瞬首を傾げたけど先輩の雰囲気から言いたくないことなんだと気付き、「そうですか…」とだけ言って再びカップを傾けた。