君に染まる(後編)
15分ほどまったりしたところで、だらんとソファーに座っていた先輩が携帯を開いてすくっと立ち上がった。
「そろそろか…」
パタンと携帯を閉じると、私の腕を掴み、そのまま大きな窓ガラスに向かって歩いていく。
何事かと思ったのもつかの間。
離れた場所からは分からなかった絶景が、窓ガラスの向こうに広がっていた。
「キレイ…」
街全体を輝かせる光は、まるで宝石がちりばめられているかのように幻想的だった。
高層だからか、遠くに夜景の地平線も見える。
「こういうの好きだろ?」
満足気に笑った先輩は、私の返事を待たずに今度はある方を指差した。
視線を向けた先は隣の建物の屋上で、これまた幻想的な世界が広がっていた。
大きなクリスマスツリーを中心に様々なオブジェが煌めき、天使やサンタクロースなども見られるクリスマスイルミネーションだ。
「別館の屋上使ってやったんだ、俺が企画して」
「企画?」
「毎年1階のレストラン横にある庭園でイルミネーションのイベントやってんだけどさ、そのスタッフに協力してもらって今夜限りのスペシャルバージョン」
「…どうしてまた?」
そう聞くと、先輩は小さく微笑んだ。
「未央へのクリスマスプレゼント」
先輩を見上げたまま目を見開く私の右手をとると、いつのまにか手にしていたリングを薬指にはめた。
突然のことで呆然とリングを見つめるしかできない。
「学校でもちゃんとしろよ。肌身離さず持ってろ」
「あ……はい」
思考回路が働かないうちから思わず返事をしてしまった私を先輩がフッと笑う。