絶対君主
「18歳です。今年で19になります」

へぇ、と相手は声を漏らす。それがどんな感情によるものかはわからないが、私の耳には毒だ。
また担当を外されるのだろうか。
だとすれば、私をクビにした記念すべき10人目の雇い主にこの人はなる。

「俺より随分年下なのにしっかりしてるや、任せた。…あ、メモ書いてなきゃゴミっぽいのは全部ゴミ。本は適当にまとめてくれてればいい。洗濯もよろしく」

じゃ、俺は仕事するから。
矢継ぎ早に言葉を投げ、雇い主は私に背を向けた。

「あ…あの、三ヶ木さん?」
「はいはい?」

リビングから繋がるドアに手を掛けて振り返る彼は不思議そうだ。
だから、聞くのをためらわれた。「本当は私をクビにしたいのでは?」なんて。

「…食事。食事の用意はどうしましょうか?」
「あ、夜だけ。お願い」

そう言うとにこりと笑って彼は別室へと姿を消した。
不安はある。けれどクビにされなかった上、ちょっとときめいてしまう笑顔を置いていかれたら仕事に忙殺されて青春皆無の私だってうっかりテンションが上がってしまう。

「頑張ろう。うん!」

この日から、頭が痛くなる日々が始まってしまったことを幸せな私は知らない。
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