絶対君主
「すみませんっ」
慌ててキッチンに向き合い、彼に背を向ける。
第一印象は『優しいお兄さん』な雇い主だったが、1週間後の今は『子どものように手が掛かる意地悪なヤツ』だ。できるだけ関わらないのが1番なのに、下手に顔が良いからうっかり見惚れてしまい、その度にからかわれる。
今も──
「ホットケーキ、まだ?」
ワザとらしく耳元に囁かれる甘えた声と、腰に回される腕。
「ぎゃあぁぁ!?」
グシャッと哀れな音を立てて私の手の中で玉子が潰れ、吹き出した挙げ句、もう気は済んだとばかりに満足げに離れる体。
「三ヶ木さん!!」
「あーあ、玉子勿体ないなぁ」
「うっ……す…みません…」
家政婦である以上、謝るしかない私に「ま、誰にでも失敗はあるよね」とか何とか。
ほざき、にこやかにソファーへ戻る雇い主様はご自分のセクハラに関しては遥か高みの棚に押し上げてしまっている。
顔がイイからって調子に乗んな、コラ。
そう思いつつ内心で拳を握るが顔の良さで許してしまっているのも、悲しい哉、事実だった。
-続-
慌ててキッチンに向き合い、彼に背を向ける。
第一印象は『優しいお兄さん』な雇い主だったが、1週間後の今は『子どものように手が掛かる意地悪なヤツ』だ。できるだけ関わらないのが1番なのに、下手に顔が良いからうっかり見惚れてしまい、その度にからかわれる。
今も──
「ホットケーキ、まだ?」
ワザとらしく耳元に囁かれる甘えた声と、腰に回される腕。
「ぎゃあぁぁ!?」
グシャッと哀れな音を立てて私の手の中で玉子が潰れ、吹き出した挙げ句、もう気は済んだとばかりに満足げに離れる体。
「三ヶ木さん!!」
「あーあ、玉子勿体ないなぁ」
「うっ……す…みません…」
家政婦である以上、謝るしかない私に「ま、誰にでも失敗はあるよね」とか何とか。
ほざき、にこやかにソファーへ戻る雇い主様はご自分のセクハラに関しては遥か高みの棚に押し上げてしまっている。
顔がイイからって調子に乗んな、コラ。
そう思いつつ内心で拳を握るが顔の良さで許してしまっているのも、悲しい哉、事実だった。
-続-