世界で一番大切な
「マスター、こういった事をされては困ります。綿を片付けるのは誰ですか?」
「……」
「とりあえずこちらを向いて下さいマスター、話はそれからです」
とは言ってみたものの、恐らくマスターは自分からは動いてはくれないだろう。
丸まったままのマスターの腰に腕を回して体を持ち上げた。子供のように手足をばたつかせているが私にはなんの支障も来さなかった。
ぽとり、とベッドに何かが落ちた。それと同時にマスターの動きが止まり、私に体を預けてくる。向き合うようにしてマスターを座らせ、その落ちたものを確認した。カッターだった。ぬいぐるみを綿と布に分解してしまった凶器だろうと予想はついた。赤黒い染みが浮かんでいるそのカッターはマスターが時折するリストカット用のものだ、けれど床にも綿にもシーツにもマスター自身にも赤い血らしき汚れは見当たらなかった。
何故だろう、と考えていると不安げに揺れるマスターの瞳と視線がかち合った。その瞬間、私は全てを悟りそして自分の浅はかさを嫌悪した。思わずマスターを強く抱き締めその柔らかな黒髪に顔を埋める。